異邦人(カミュ)を自分なりに訳す I-5

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すっとこすられるような感覚で目が覚めた。
目を閉じていたので、部屋は前よりももっと白さでまぶしく感じられた。
目の前には影が無く、どの物体も角もカーブも目が痛くなるようにはっきりと立ち現れていた。
丁度この時、おふくろの友人たちが入ってきた。
全部で10人が、静かにするすると、目のくらむような光の中に入ってきた。
彼らは腰掛けたが、どの椅子も音を立てなかった。
俺は、ヒトというものを今までに見たことが無かったかのように彼らを見た。
顔や服装の細部をも俺は見逃さなかった。
しかしながら、彼らが話すのを聞かなかったので、彼らが実在していると信じることは難しかった。
ほとんどすべての女は前掛けを付け、その紐が腰でぎゅっと縛ってあるので、お腹が出ているのが目立っていた。
俺は、これまで、年配の女性の腹がどこまで大きくなるか、気にした事が無かった。
男性陣はほぼ全員、とても瘦せていて杖を持っていた。
彼らの顔で驚いたのは、瞳が見えず、皺の巣の真ん中に輝きのない光が見えるだけだということだった。
椅子に座るとき、彼らの大部分は俺の方を見て苦しそうに(?)首を動かしたが、そのとき、
彼らの唇は歯の無い口の中にすっかり入っていた。
俺は、それが俺への挨拶なのかチックなのか判断できなかった。
挨拶だったんだろうと思った。
と、そのとき、俺は、気が付いた。彼らは、みんな、管理人を取り囲んで俺の方を向いて座り、頭をゆすっていたのだ。
一瞬、おかしなことを考えた。彼らは俺の裁判のためにそこにいるのだと。
少しして、彼らのうちの女が一人、泣き始めた。
彼女は2列目に居て、彼らの一人の陰に隠れていたので、俺からは良く見えなかった。
彼女の泣く声は小さかったが、変わらぬ調子で(同じペースで)泣いており、ずっと泣き止みそうもないと思った。
彼女以外には、彼女の泣き声は聞こえない様に見えた。
彼らはうつむいて、沈痛な面持ちで黙っていた。
彼らがみていたのは、棺か彼らの杖か、いずれにしろ、それしか見ていなかった。